「今宵あなたのー、かぁ」


「あ」


「どした?」



茜の呟きで気がついた。


そうじゃん、そうじゃん!


これわたし宛ではないかもしれないんじゃん!



「おーい、今宵。お悩みモード発動しちゃった? 何考えてる?」


「茜」


「ん?」


「考えてること言うからよく聞いて。〝今宵、貴女の〟って要は〝今宵、今宵の〟ってことじゃん?」


「あーまあそうだろね」


「それって、すんごい回りくどいよね。おかしくない?」



うん、やっぱりおかしいよ。


ほんっとに回りくどい。



「おかしいって茜は思わない?」


「うーん……」



今度はわたしではなく茜がお悩みモードを発動してしまった。


廊下を歩きながら考えるポーズをする茜。



「別に、おかしくないと思うけど…」



もう教室に入って何分か経ってやっと出た茜のこと答えは、わたしの考えとは反対のものだった。



「なんでっ!」


「だって、そういうのが好みの人間だっていると思うから」


「は、そういうのが好みってどんなんだよ」


「古文が、ってこと」


「はぁ?」



わけがわからず悪態をついてきたわたしのおでこを茜がチョイと押す。