「おはよう」



上履きを床に落としそれを履くわたしに、静かな声が降ってくる。



「あ、宮崎」



今日の分の白い封筒を手にしたわたしの手を一瞥して、宮崎は挨拶だけを残してさっとわたしの前から去る。



「挨拶くらい返させてよ、ばか」



わたしから離れていくその背中に声をかけても振り返ってはくれなかった。


かっこつけなのか意地悪なのか知らないけど、どうもそれが宮崎らしいと思えてしまった。



「今宵の鬼畜」


「あ、茜」


「もー! うちが信号渡れなかったからって置いてかなくてもいーじゃん」


「歩きスマホしてて電柱にぶつかった茜が悪いんでしょ」



電柱にぶつかってその痛みにうずくまったせいで、チカチカと点滅していた信号を渡ることが出来なかったのである。


ブーブー言って唇を尖らせる茜は、今朝も相変わらずのおばかな元気っ子である。



「あ、そうだ。茜って、パズルさんの呪いの話知ってる?」


「あーうん、すごい出回ってるよねぇ」


「へえ…、そうなんだ」


「んー。でもどうせ噂だし、今宵のは違うと思うよ」


「なんで言い切れるの?」


「女の勘」


「またそれかよ」