ためらいを見せながらも先輩は口を開いた。
「大会でいくら勝っても、いつも大会新記録を出して更新している真尋には勝てなかった。いつも褒められるのもみんなの中心にいるのも真尋、で……」
だんだんと揺らぐ声と小刻みに震える肩。
先輩が言葉を紡ぐことを、とてもキツそうにしている。
これは、…本当にどうしたらいいんだろう。
「俺が真尋の実力のせいで辛い想いをしていることに気がついていたから、きっと真尋は高跳びを辞めたんだけど、真尋が高跳びを辞めた後でも真尋の栄光はずっと語られてたんだ。だからずっと真尋のことが恨めしかった。……それで、一度だけ真尋に対して強く当たった」
先輩の顔が翳って、伏せられてしまった。
何もできないことを不甲斐なく思いながらも、わたしは動けなかった。
「それが、真尋が事故にあったあの時の1日前。あの時はあまりに記録が伸びなくて俺、悩んでて。そうしたら真尋がアドバイスをくれたんだ。それで、俺、偉そうに俺に指図するな、って怒鳴ってしまって」
ぽつり、地面にシミができる。
ぽつり、ぽつり、後から後からシミが増えて小さな水たまりができる。
「せ、先輩…」
「だから、君が悪かったと思わなくていいんだよ。俺が真尋を苦しませてしまったんだから。君を怒鳴る資格は俺にはないんだよ、なかったのに、怒鳴ってしまって、……っ」
上げられた先輩の顔は、涙でぐちゃぐちゃだった。


