確か真尋と一緒に何度も見学に行って、先輩と仲良くなったんだ。
練習に集中している先輩に、声をかけてもいいものだろうか。
いや、かけなければならないのだけれど。
どうしようかと思っていると、足に違和感を感じすぐにカサ、と音がした。
足元にあった茶色のどこぞのパン屋の袋を踏んづけたらしい。
「あ。……今宵ちゃん」
そのせいで体育館の戸の前で考え込んで佇んでいたわたしに、先輩が気がついた。
先輩の額には汗が流れていて、そんなになるまでの時間練習していたのかと思うと、すごく待たせてしまったことがわかった。
思わず渋い顔になってしまったわたしに、先輩は微笑みながら首をかしげる。
その微笑み、怖い。
いや、怖いと思うべきではないことはわかってはいるんだけど。
「ちょっと待ってて」
先輩がタオルとミネラルウォーターのペットボトルを手にして、私の元へ来た。
汗を拭い豪快にペットボトルを傾けて水分補給をする姿に、爽やかだなぁ、と場違いなことを考える。
その爽やかな風貌で、今からどんな怖いことを口走るのだろうか。
想像もつかない。
というか、想像したくない。
「今宵」
先輩が、わたしを呼んだ。
わたしが記憶を取り戻す前と同じ、いつも通りの声で。


