嘘つき天使へ、愛をこめて


雅はきっと悪い人じゃない。

それは最初に雅を見た瞬間、この人が総長だと分かったのと同じように感じていた。


あたしがスープを飲んでいる図なんて見ていても面白味もないのに、それを至福だなんて言うくらいなんだから。


「サリ、ここに住むにしろ住まないにしろ今日は泊まっていきなよ。部屋にシャワーもついてるし、明日の朝はそのまま学校に送ってくから」


立ち上がりがてらそう言って、雅はデスクに移るとこちらに背を向けたままパソコンをいじり始めた。


……仕方ない、か。

こんな時間に外を歩いていたら、この間のようになりかねないし。


無駄に危険の中へ足を突っ込みたくない。

あたしはもう一度カップを手に取り、スープを少しずつ口に含む。


どうもパンには手をつけれそうにない。

とりあえずスープだけでも、と最後は半ば無理やり流し込んで立ち上がった。


「雅、水貰っていい?」

「あぁうん、冷蔵庫の中にミネラルウォーターが入ってるから好きに飲んで」

「水道水でいい」


トレイを持ってキッチンへ踏み込む。

どこも整理整頓されていて、普段使用しているであろう柊真の性格を窺わせた。


サッとカップを洗って、水気を拭き取ってから食器棚へ戻す。


手をつけていないパンはサランラップに包み、ありがたく貰っておくことにする。


適当にコップを拝借して、水道水を汲むと雅がこちらを向いていないことを確認して、ポケットへと手を忍ばせた。