「貧血なのは食べないからだろ」

「っ……え?」

「昼も食べてないし、いくら食欲ないって言ってもさすがにそろそろ腹減ってんじゃない?」


フッと笑った雅は、ステップ軽く立ち上がり、あろうことかあたしの背中と膝裏に手を回すとそのまま抱き上げた。


な、な、なんっ……!?

咄嗟のことでうまく機転が利かず、ぎょっと体を固まらせていると雅はくすっと笑みを零した。


「ホント、サリっぽくないな。また倒れられても困るから、ちょっとそのまま大人しくしてて。お姫様?」


「ば、ばかにしないで……!」

「暴れたら落ちるって。どうせ、今は動く元気もないんだから、こーいう時くらい甘えなよ」


間近で悪魔の微笑みを向けられ、あたしはかあっと顔を赤く染めながら唇をかみしめる。


これは照れて赤くなっているんじゃない。

断じて屈辱からくる赤みだ。


いくら顔が良いからって、こんな得体のしれない人相手に照れたりなんかするものか。


そう必死に自分に言い聞かせながら、せめてもの抵抗としてひたすらに雅の嫌味なくらい美麗な横顔を睨み続けた。