「……穢れ」



黒く淀んで、泥水のように濁ったまま漂い続ける空気。

人間の救いようのない下心。


鏡を見れば、映るのは自分の住んでいるキレイな世界しか映らないように表面上は綺麗かもしれない。


けれどその裏の世界には、そういう穢れしか存在しないのだ。


わかりきっている。

そんなこと、嫌になるくらい。


あたしが知らない世界?

ばかばかしい。


……そう思った次の瞬間。



――――グイッ!



「……俺も、伊達に総長やってるわけじゃないからさ」



そう言いながらあたしの腕を強く引いた雅に、一瞬にして真っ白な壁に背を押し付けられる。


……なに、今……よけられなかった。


気が逸れていたからといって、いつのまにか鼻先30センチにある雅の整った顔に狼狽えてしまう。


ふわり、甘い香りが鼻を掠める。


見つめあっているはずの雅の瞳の色が見えなくて、なぜだか底知れぬ恐怖を感じた。


ああ、この人はきっとなにか抱えている。



―――"闇"。


逃れられない、底知れない、真っ黒なものを。

あたしと同じような、どこまでもどこまでも追いかけてくる化け物のようななにかを。