「ここらへんの地区はあまり治安が良くない。胡蝶蘭だけなら喧嘩も犯罪もない平和な地区だろうけど、残念ながらそうもいかなくてさ」


深く溜息をつき、問題児を指導する教師のような渋い顔をする雅に、あたしは小首を傾げた。


へえ、雅でもこんな顔するんだ。


「俺たちみたいな異端な族を潰そうとする族が結構あっちこっちから仕掛けてくるんだよね。現在その代表格が二つ。それが……」

「華鋼と、龍靱?」

「そーいうこと。あいつらはうちと違ってやることなすことえげつないから厄介なんだよ。一色触発状態」


まあまあ、なんとも穏やかじゃないこと。

平和だって聞いてたのに、それはあくまで族内でってことだったのか。


……やっぱり本質は何も変わらない。


当たり前か。期待するだけ損だった。


「そんな状況の時に、サリがうちに転校してきた。だから最初はスパイなんじゃないかって疑ってたんだけど、それにしては色々知らなすぎるし、なにより柊真が大丈夫って言ったくらいだからその線は消えた」

「なんで柊真?」


「柊真はあれでも副総長だから。喧嘩も人一倍強いけど、特に人を見抜く力は伊達じゃない」

「へえ。随分信じてるんだね」


あたしが何者かだってまだわからないのに。


スッと目を伏せたあたしに雅は「まあね」と答えると、話を戻すように再び部屋の中を覗き込んだ。