「ここ使っていいよ、サリ」
「は?」
「玲汰のお願いだから」
「意味わかんない。別にいい。こんなとこ住めるわけないじゃん、族の基地なんて」
「別に俺は強要なんてしないけどさ、玲汰は……」
ひょいっと肩を竦め、雅は言葉尻を濁す。
「いや、玲汰だけじゃないか。……あいつら、どうもサリのこと気に入っちゃったみたいだから、総長として一応忠告までに教えとくけど」
……忠告?
「……うちは基本、女と子供はいかなる場合でも手を出すなって言ってるんだ。まあ100%とは言い切れないけど、少なくとも俺や幹部メンバー達と絡んでるうちは心配する必要はないと思う」
「……へぇ、ありがたいこと」
「うん、でも問題なのは、他の族。特に今うちと全面的に敵対してる華鋼は……」
華鋼?
聞きなれない言葉に眉を寄せると、雅は二本指を立てて見せた。
「胡蝶蘭の敵対集団だよ。華鋼とその傘下の龍靱」
「変な族名」
「敵対集団って言葉を聞いて最初にその感想を言ったのはサリが初めてだ。ホント、呆れるほど肝が据わってる」
「わ、悪かったわね……」
胡蝶蘭だって、あたしは全く意味が分からなかったけど。
基本的なことすら知らないあたしに丁寧に説明をしてくれるその意外な優しさに妙な気味悪さを感じながらも、聞き逃すまいと耳を傾ける。



