「もういいでしょ、あたし帰る」
胸糞が悪くなり「話すんじゃなかった」と溜息をついて、立ち上がろうとすればガシッと手首をつかまれた。
ああ、そういえば玲汰寝てたんだっけ。
すっかり忘れてた。
玲汰は、あたしの太腿に頭を乗せたまま動こうとしない。
いつから起きていたのか、下からじっとあたしを見つめて掴んだ手首を自分の顔のそばに持ってくると掌を頬へピタリとあてた。
「……冷たい」
「うん、冷たいよ。玲汰は温かいね」
「俺も昔は、冷たかった。ここにいれば……きっと、天使も……温かくなる」
「何が言いたいの?」
玲汰の瞳が、なにかを言いたげに揺らいでいたけれど、それがなんなのか分からなかった。
のそのそとまだ眠たそうに起き上がった玲汰は、雅に向かって首を傾げる。
「総長も、きっと……俺と同じこと考えてる。でしょ?」
「それは俺じゃなくて、玲汰のお願いだと思うんだけど?」
「そういうことにしておいても、いいよ」
なにがいいんだ、なにも良くない。
雅はわが子のわがままに撃ち落とされたような父親のように困り顔で笑って立ち上がった。
そして、あたしのそばまで歩み寄ると手を差し出してくる。
「なに?この手」
朝もこんなことされなかった?
「ちょっとついてきてよ、サリ」
なんで、というよりも前に無理やり立たされて手を引かれる。
慌てて玲汰を振り返るけれど、玲汰は行ってらっしゃいとでもいうように頷いてまた眠りに落ちていった。
あの自由人……!



