嘘つき天使へ、愛をこめて



「なに、雅」

「いや、度胸があるなって思ってさ」

「あたし弱くないもの」

「……ふーん、弱くないんだ?」


完全にバカにしてるなと思いつつ、あたしはふいっと顔を背けた。


弱くない。

あたしは一人じゃ何も出来ないような、護られるだけの女には絶対なりたくないから。


「一人暮らしなんてもう何年もやってるし」

「……何年も?」

「かれこれ五年くらいね」


さらりと言ってのけたあたしに、櫂が大きく眉根を寄せた。


唯織と柊真が理解出来ないというように顔を見合わせ、どういう意味だと言わんばかりに視線を向けてくる。


あたしの事を知ったって、この人たちが得することなんてひとつもないのに、どうしてそんな知りたがるんだろう。


まああたしの生い立ちを知られたところで、痛くもかゆくもない。


どうせこのくらいの情報、調べようと思えばすぐに調べはついてしまうだろうし、隠しても無駄かな。


ふう、と深く息を吐いてどことも取れない宙を見つめる。


「……母親は、あたしが五歳のときに病気で他界したの。父親はその後ギャンブルに手を染めて放浪、五年前くらいから全く帰ってこなくなった。それだけ」


……恐らくあたしは、捨てられた。

なんの言葉もなく消息を絶ったがゆえに、今となってはもうその真実がわかることはないけれど。