……はあ。あたし、何やってんだろ。
柄にもないことをしている自分に面食らって宙を仰ぐと、向かいに座る櫂があたしのことを見ていることに気づく。
「なに?」
「いや、珍しいなと思ってな」
「珍しい?」
器用に肩眉を上げ、櫂が興味深そうに腕を組む。
「玲汰がこんな風に初対面の女と馴れ合うなんて、今まで見たことがない。そもそも俺たち以外とまともに話している時点で、昼間から不思議なもんだと思っていた」
「え、そうなの?」
「ああ」
……玲汰、あたしとは最初から話してくれたような気がするんだけど。
「玲汰と君は波長があうのかもしれんな」
「櫂ってさ、たまにどこぞの博士だよって思うような発言するよね。柊真がお母さんなら、櫂は年老いたおじいちゃんって感じ」
「……なんの偶然か前に同じことを玲汰にも言われたことがあるが、断じて俺はまだジジイなどと呼ばれる年齢じゃないぞ。それならキテレツのほうがまだマシだ」
「ふふっ、よくわかってるじゃん、玲汰」
思わず噴き出すと、玲汰がうっすらと瞼を開けた。
「「あ!」」
「な、なに?」
かと思ったら、突然降り注いだ唯織と柊真の声に驚いて眉間に皺を寄せて顔をあげれば、二人は目をキラキラとさせてこちらへ歩いてくる。
その手に持つトレイには、ポットとティーカップが人数分置かれていた。
「今、サリちゃん笑った!」
「貴重なものを見たな。今日一日笑わなかったからそういう奴なのかと思ってたけど、やっぱり笑った方がずっと良いぞ。サリちゃん」
笑ったって……。
「あたし今日一日、普通に笑ってたと思うけど」
「無理にだろ。そうじゃなくて、今のは自然な笑顔だった。初めてサリちゃんの本当の顔が見られたような気がするよ」
「うんうん!めっちゃ可愛いよ、サリっぺ!」
「ちょっと唯織、サリっぺてなに?」
「可愛いからつけた。サリリンの方がいい?」
あたしのことを一体何だと思ってるんだ、この人たち。
内心呆れつつ、でもそうかもしれないと思った。
自然と笑ったのなんていつぶりだろうか。
面白くて、というよりは癒されての方が近いけれど、今ので自然と肩の力が抜けた気がする。



