――とはいえ。
「サリちゃん?」
「はい」
「天使だね」
「は?」
さすがにその言葉には、思わず声が裏返り、顔がピクッと引き攣った。
意外と危険人物かもしれない、この人。
出会い頭に人のことを天使なんて、むしろ失礼だ。
嬉しくもなんともない。
あたしまだ死んでないし。
「ヤバい、俺こんな可愛い子初めて見た。ねえ、サリちゃん、俺の彼女になってよ」
「お断りします」
「あ、フラレた」
当たり前だ。
なんなの、この早速頭が痛くなってくる展開は。
ズキンと痛んだ頭を反射的に左手で抑えながら首を振る。
あたしは深い溜息をついて、もう一度その惟織という人物に視線を向けた。
うん、この人、きっと頭が弱いんだな。
だけど、胡蝶蘭の中では下っ端ではない。
この余裕さから推測しても、恐らくそれなりの立場にいる人間だ。
きっと。たぶん。



