「……なんで助けてやれなかったんだろう、なんで俺だけ生きているんだろうって。でも周りの大人は皆口を揃えて、俺だけでも助かって良かったって言うんだよ」
「そんな……」
「良くねえ、よな。全然。……罪もない両親が殺されて、俺はたったひとりで残されてさ、そんな言葉受け入れられないだろ」
受け入れられないに決まってる。
子どもは、子どもだからこそ敏感なんだ。
大人が思っているよりもずっと繊細で、ずっと色々なことを考えている。
小さな頭で、必死に。
「俺はね、サリ」
雅がすっとあたしの頬へ手を添えた。
冷たい雅の手が、ひんやりと頬を伝う。
「……ずっと、逃げてきた。あいつらと出逢ってからも過去は捨てきれなくて、ただ強くなることだけを考えてきた」
「だから胡蝶蘭は……雅は、強いの?」
「ん、でも多分、うちのヤツらは皆そうだ。誰かを守りたいって気持ちが少なからずどこかにあるから、強くなるために胡蝶蘭へ来るんだよ」
強くなるために。
強くならなきゃ、とがむしゃらに。
……なんだ、そういうことだったんだ。
あたしと同じだ。
ずっと強くなりたくて、ひたすらに強くなるために、今まであたしは孤独を背負って生きてきた。
ひとりでも大丈夫だと思えるように。
でも、あたしと胡蝶蘭の違いはそこにある。
ひとりで強くなるか、皆で強くなるか。
ただひとり、雅だけはあたし側だった。
胡蝶蘭の中にいても、雅はいつも孤独に見えた。
それは、雅自身が過去を捨てきれずに大切な人を作ることを避けていたからだ。
……また、失ってしまうことを恐れて。



