妖しい光を浮かべる雅の瞳に、あたしは首まで赤くなりながら顔を俯ける。


ほんと、もう、ずるい。

雅はあたしの心を揺すぶるのがとことん得意らしい。

手術の前に心臓発作で死にそうだよ、なんて、意外にも冗談にも思えなくなって思わず真顔になった。


「……ま、キスは置いといてさ」


フッと空気が抜けるように笑った雅は、立ち上がりがてらカーテンを閉める。

陽光が強くなってきたのだ。


「俺、サリに聞いてほしいことがある」

「聞いてほしいこと?」

「うん、過去の話」


勢いよく顔を上げると、その拍子に頭の傷がずきんと痛んだ。


眉間に皺が寄るのを見て、雅が慌てたように「バカ」と後頭部を覗き込む。


「傷口開いたらどうすんの」


常々思っていたことだけど、雅って意外と心配性だよね。


あたしは「大丈夫」と笑って、雅の服の袖を掴んだ。


「聞かせて、雅の過去のこと」


大翔は雅の口から聞かないとだめだと言った。

あの時はもう二度とそれを聞くことはないだろうと思っていたけれど、今は違う。


手術を受けたあと、覚えていてもいなくても、今、あたしが聞きたいと思うから。