「……なあ、サリ」
大翔の瞳が揺れていた。
「頼むから、手術を受けてくれ」
懇願するように、じっとあたしを見つめる。
俺はもう何も失いたくないんだよ、と言っているような瞳だ。
ママとあたしを重ねているのかもしれない。
「お前は咲妃とは違う。今なら手術を受ければ摘出だって出来る。完治する可能性だってゼロじゃねえ」
たしかにそうだ。
けれど、あたしは首を振る。
「お金もない、家族もいない。そんなあたしに生きる価値なんてないんだよ、大翔」
「んなことねえだろ!俺はどうなる?俺は、ずっとお前のことを……」
「うん、大翔には感謝してる。本当の妹みたいにあたしの事思ってくれてた。でも、医者も言ってたでしょ。手術を受けたら、高い確率で記憶障害が起こるって」
記憶に通じる神経を巻き込んで腫瘍が出来ているとか、そんな話だったと思う。
仮に手術が成功しても、記憶が失くなる可能性がある。
記憶だけじゃない。
後遺症もあるかもしれないし、再発だってするかもしれない。
あたしはそれが怖いのだ。
どんなに強がっても、どんなに強くなろうとも、抗えない運命はどうしようもない。
かせられたそれらは、とてもあたしが受け止められるようなものではない。



