「親友っつか、俺から見た咲妃と愛実はもはや姉妹に近かったけどな」
愛実とは、恐らく彼女の名前だろう。
「姉妹?」
「愛実は俺より三つ下だ、つまりは咲妃とも三つ離れてるってことになるだろ」
「ふうん、でもなんで愛実さんのため?」
「愛実が俺のことを好きだったから、なんて自分で言ったらクソ恥ずかしいんだが、まあそういうことらしい。愛実本人もそう言っていた」
はあ?と声が出そうになった。
だって、いやなんなのその綺麗事は。
親友が自分の恋人を好きになったから、譲ってあげたと?
我が母ながら理解できない。
全くもって、意味が分からない。
「誤解すんなよ。ただ単に愛実が俺のことを好きだったから別れたんじゃねえ。咲妃は当時、あるくそったれ男に引っ掛かって子を身篭ってたんだ」
身篭っていた?
「それあたし」
「そう、お前。咲妃はたとえ愛していない男でもこの子は産むって。その責任を俺には背負わせられないから、この子の父親に背負わせるからって、まあもう何も言えねえぐらいの気迫で言われたよ」
「で、別れたと」
「なあサリ、お前淡々としすぎじゃね?」
だってこんな話に、感情など必要ない。
ただひとつ分かった。
あたしの母親は、あたしを捨てた父のことを愛していなかったのだと。
あたしは正真正銘、望まれぬ子だったのだと。



