「……こういうの、良くないよ」
いつの間にか、圭太は泣きそうな表情になっていた。
傷のこと、知っていたんだ。
でも、圭太になら気づかれていいかなと思っていた。
「あはは。やめなよ、って言えないのが圭太っぽいよね」
「言いたいよ。でも、その傷って……」
「うん。お兄ちゃん死んでから時々、切ってる」
そう伝えると、つかまれた腕が外された。
圭太はこの前と同じように、両手を額にあて、ぐしゃりと前髪を掴む。
ごめん。また困らせちゃったね。
抱えている罪悪感をまたふくらませてしまった。
しかし――
「え?」
再び左手首をつかまれた。
驚いて、右手にしていたカバンと松葉杖を手離してしまった。
カラン、とその杖が倒れる音が鳴った時。
そのまま手首が引っ張られ、強引に彼の頬に持っていかれた。
寒い空気のせいで表面は冷たかったけど、
くっつけられた手首から、次第に彼の温もりが溶け込んできた。
予想もしなかった行動に全身が動かなくなる。
片足立ちなのに意外と体のバランス取れてるんだな、と必死で別のことを考えようとした。
そうしないと泣いてしまいそうだったから。
しかし、
「ごめん」と小さく口を動かしてから。
圭太はもう片方の腕で私の背中を引き寄せてきた。

