父と母は仲が良い共働き夫婦だった。



母が保育園に迎えに来るのは、

次々と減っていくおともだちを見送ってから。



母は『遅くなりすみません!』と保育士さんたちに謝り、残された俺を連れてダッシュで家に帰った。



家に帰れば、母は慌ただしく台所で料理を作っていた。



手伝えることはないかなと思い母のもとへ行くと、


『圭太、邪魔しないの。母さん指切ったらどうすんの?』


と言われ、リビングへと追いやられた。



父が帰ってくる頃には食卓に夕食が並べられていた。


ご飯を食べながら楽しそうに会話する父と母を横目に、俺は食事を口にしていた。



『ねーそれってどういうこと?』と2人の話に入ろうとしても、

母に『こら、圭太。大人の会話に入ってこないの』と止められた。



わざとだったか、偶然だったかは忘れたけど、

味噌汁をテーブルにこぼした時は、父も母も俺に注目してくれた。



母にバシッと頭を叩かれる。父からは、行儀が悪いぞと怒られる。



そんな日常を送っていたが、父は病気で死んでしまった。



大好きだった父を早くに亡くした母は、しばらく抜け殻のようだった。



『これからはぼくが母さんのこと守るから』


『圭太、圭太ぁ~、うわぁーん』



父が死んだことは俺もショックだった。


だけど、母はようやく俺を見てくれた。俺だけを。



あの時生じた汚い心を、俺は必死になって自分の奥底に閉じ込めた。


二度とそんなことは思わないようにと。