きたない心をキミにあげる。




「あれ。君は……圭太くん?」


「あ、あの、こんばんは。ご無沙汰してます……」


「へぇ。足だいぶ良くなったんだね」


「……はい」



圭太は死んだ友達の父を前に、引け目を感じているらしい。


消えそうな返事をした後、うつむいてしまった。



「お大事にね。じゃ、愛美ちゃん帰ろう」



圭太にちらっと視線を向けてから、お父さんは私の腕をつかんだ。


セーラー服越しにぬるい体温がひっついてくる。


全身にぞわっと気持ち悪さが走った。



「大丈夫だから! ちょっと買い物してから帰るし」



いつもみたいに、触らないで! と叫ぶことはできなかった。



駅前で人通りも結構ある。


圭太に変に思われるのも嫌だった。



だけど、お父さんと家で2人きりになりたくない。


くそ。お母さんが帰るまでの辛抱だ。


あと30分くらいか?



「だめだよ愛美ちゃん。もうこんな時間だし帰らないと」


「大丈夫だって」



圭太を見ると、メガネ越しの瞳がおろおろと揺れていた。


父と娘の不自然なやり取りに驚いているらしい。



私はなるべく笑顔をくずさないよう、ふるまった。



しかし――



「実はね、今日お母さん戻らないんだよ。泊まって看病しておいでって伝えたから」



お父さんは嬉しそうな声で囁き、口角を上げた。


その言葉にびくりと体が震えた。



嫌だ。やめて。


帰りたくない!



つかまれている左腕に力を入れる。


動かそうとしても、お父さんの強い力により振り払うことはできない。



車に連れ込まれそうになった、その時。



「あ、あの……ちょっと待ってください!!」



駅前広場に響いたのは、圭太の大声だった。