「会いたいよ、お兄ちゃん」
キリキリとプラスチックがこすれる音が部屋に響く。
手にしたカッターナイフの刃がむき出しになる。
ブレスレットがついていない方、左手首にその銀色をくっつける。
ひんやりとした感触が気持ちいい。
何度こうしたってお兄ちゃんに会えるわけがない。
もし死んだとしても焼かれてただの骨になるだけ。
私がしていることなんて、ただの気休めだ。
私の誕生日プレゼントを買いに行ってくれたお兄ちゃん。
内緒でお祝いの準備をしてくれていたことは、嬉しかった。
でも、そのせいでお兄ちゃんは死んでしまった。
やっぱり私が生まれてこなければ良かったの?
でも生まれてなければ私はお兄ちゃんと出会えなかった。
もう、こんな考えを繰り返すのも、つらいよ。
「いったぁ……」
鋭い刃を白い肌に差し込む。
何ビビってるんだ私。引け。思いっきり引け。
どうせこんな切れ味の悪いカッターじゃ死ねるわけないんだから。
息を飲み、右手に力を込めた時。
ブー、ブー。
カバンの中でスマホが振動している音に邪魔された。

