「ねぇ、あんたって家族は?」
テレビ画面を見ながら、佐藤愛美はつぶやいた。
「母さんだけ」
「え。お父さんは?」
俺は「俺が4歳の時に病気で死んじゃった」と答え、
テレビ横の写真立てに視線を向けた。
「そっか。聞いてごめん」
「別に」
「1人で……寂しくないの? グレなかったの?」
「え、グレる!? 俺、そんな度胸ないって。まあずっと家で1人だったから、何か、俺がしっかりしなきゃって。母さんに余計な心配かけたくなかったし」
「へぇー」
いつの間にか彼女に顔をのぞきこまれていた。
今回は視線が合った瞬間、急いでそらすことができた。
勢いでソファーの端に移動さえしてしまう。
女の子と家でこんなに近くで2人きり。
上手くふるまえているだろうか。全然慣れない。
しかし、ソファーがふわりと揺れる。
佐藤愛美は俺を追いかけるように近づいてきた。
ちらりと横目で見ると、
「何で逃げるの? さっき私のこと超見てたくせに」
と彼女は言い、ニヤリと口角を上げてきた。
落ち着いたはずの鼓動が再び騒がしくなる。
「や、その、さっきのはアクシデントっていうか」
「あはは。また赤くなってる。ウケるー」
どうやら今、俺はからかわれているらしい。
どうせモテないオタ男だよ俺は、と心の中で毒づいておいた。

