「はぁ、はぁ」
やみくもに走っても行く場所はなかった。
遠い高校に通ったままの私。近所に友達はいない。
カバン、お金……定期。全部、部屋に置いてきた。
今持っているのはスマホだけ。
とりあえず駅前広場の噴水の縁に腰をかける。
駅からはどんどん人が吐き出され、自転車置き場やタクシー乗り場に流れていく。
スマホをつけると、お母さんからのメールがあった。
『おばあちゃんが具合悪くなったので、今日は実家に行きます。夜ご飯はお父さんと食べてね』
何も知らないバカなお母さんにいら立ちを覚えた。
良かったね、養ってもらえる旦那さんができて。
あんたの好きな男の人は、お母さんを好きかもしれないけど、本当はヘンタイらしいよ。
普段のお父さんとお母さんは、仲の良い一般的な夫婦に見える。
ケンカはほとんどしないし、休日には2人で出かけることもある。
お兄ちゃんが死んだときには、お互い悲しい顔をしながらも通夜や葬式の段取りを協力してやっていた。
再婚する前のお母さんは、仕事で毎日疲れていて、体調もよく崩していた。
だからこそ、お母さんには心の中で毒づくことしかできなかった。

