ギィー、と扉が開けられる音で目が覚めた。


どうやらお兄ちゃんのベッドでそのまま眠ってしまったらしい。



「愛美ちゃん?」



真っ暗になった部屋に、甘ったるい低音が響く。


恐怖で全身が震えた。



「どうしてここにいるの? 弘樹はもういないんだよ」


「……別に。何となく」



スマホをつけると、部屋に薄い光が行き渡った。


ぼうっとヤツの顔が浮かび上がる。



ヤツは口角を上げ、ベッドに寝転がる私を見下していた。


にらみつける私の表情を舐めるように見たのち、はだけた私の太ももに視線を移す。



「お母さんは?」


「あれ、メール見てないの? お義母さんの具合が悪くて見舞いに行ってるよ。今日は帰らないんじゃないかなぁ」



どくん、どくん、どくん。


鼓動が早まり、冷や汗も出そうになる。



だから今日、やけに早く帰ってきたんだこいつは。



ぎり、と奥歯を噛みしめる。


日々のバイト疲れのせいか、いつの間にか眠ってしまった自分。


簡単にミスをしてしまったことが、悔しい。



「弘樹がいなくなって寂しいのは分かるよ。愛美ちゃんと一緒。僕も実の息子を亡くして苦しいんだ……」



そう言って、ヤツはネクタイを緩め、私に近づいてきた。


スマホの明かりが消え、部屋の中が闇に包まれる。


ぽんと頭に手が置かれ、全身がぞわりと気持ち悪さに包まれた。



「嫌! 触んないで!!」



必死でその腕を振り払い、私はスマホ片手に部屋を飛び出した。



「愛美ちゃん、待ってよ。ご飯食べにいかない?」



生ぬるい汚れのようなものがコーティングされた声が降りかかってくる。


私は無視してお母さんのサンダルを履き、家を出た。