あの時は、お兄ちゃん以外、何もいらなかった。
血のつながっていない兄妹が結婚できることも知っていた。
いつか家を出て、お兄ちゃんと二人で暮らせることを夢見ていた。
お兄ちゃんとの関係は私たちだけの秘密だった。絶対の。
バレないようにするためか、お兄ちゃんは早めに私を部屋に返す時もあった。
後で来てねと言っても、私の部屋に来てくれない日もあった。
そんな日が続くと、お兄ちゃんが私の前からいなくなってしまうんじゃないかと不安になった。
だから、嬉しかった。
私に内緒で誕生日を祝おうとしてくれたことは。
でも彼は私へのプレゼントを買ったあの日、死んでしまった。
家には写真と白い布にくるまれた骨壺があるだけ。
もうすぐ49日。
お兄ちゃんは家からいなくなり、お墓のそばに埋められてしまう。
いや――
もうお兄ちゃんは、いない。
お兄ちゃんの意志はもう、この世に存在していない。
何度もそう言い聞かせる。そうやって自分を保つ。
水越圭太を憎むのは間違いだったことに気がついたから。
だけど、お兄ちゃんがいないこの世界で、どう生きていけばいいかが、まだ分からない。
私が生まれてこなければ、お兄ちゃんは死なずにすんだの?
でも私が生まれなければ、私が、お兄ちゃんと出会えなかった。
行き場もゴールもない、無限のループに襲われる。
左腕に刻まれた赤色と、右腕のブレスレットを交互に眺めてから、私はぎゅっと布団を抱きしめた。