「や、俺もその、弘樹のこと……きみに何て言ったらいいか……」


「ねえ、その『きみ』ってのムズムズするからやめて」


「ごめん」


「愛美。佐藤愛美。佐藤弘樹の妹」


「わかった。愛美、さん」


「はぁ。一こ下だし、呼び捨てでいいよ」



年上の水越圭太にタメ語を使う自分のことは棚に上げ、ぶっきらぼうに彼にそう伝えた。



「じゃあ、そ、その、愛美。今日はありがとう」



女慣れしていないのか、私に引け目を感じているのか。


水越圭太は私の名前をためらいがちに呼ぶ。



お礼を言うのは私の方だってば、とは言わないでおいた。



「ねぇ、せっかくだしライン教えてよ」


「え? いいけど」


「退院したら連絡して。私が知らないお兄ちゃんのこと、いつか教えてほしいな」


「うん……」



どことなく戸惑いの表情を浮かべつつも、彼はごそごそとパーカーを探り、スマホを手にした。



悪い人じゃないと思う。


むしろ、こいつはお兄ちゃんが一番心を許していた友人だ。きっと。



『水越圭太』という名前がラインに登録される。



不思議な感覚がした。


新しい世界が始まった、気がした。



「ねえ、このアイコン何? アニメキャラ?」


「……まぁ」


「女の子とライン交換するとき、これだと引かれるよ。モテないよ」



そう伝えると、彼は「いーじゃん。どうせモテないし」と言って口を尖らせた。


いじける様子がちょっと面白くて、ぷっと吹き出してしまった。