「え……?」



就職が決まってから必死にバイトして買った、金色の指輪。


彼女は手を震わせながらも、それを受け取ってくれた。



本当なら俺がはめてあげるのが普通なのかな。


でも、選択するのは彼女にしてあげたかった。



大きな瞳をうるませて、ゆっくりと愛美は左手の薬指にはめてくれた。



よ、良かった……。



格好つけてはいるけど、安心のあまり腰が砕けそうになる。



「や、その、ごめん。それ安いやつで。俺、もうすぐ就職するし、そうしたら給料何か月分とかのもっといいやつ買えるから、今は我慢して」


「ぷっ、あはは。何言ってるの。これで十分だよ」


「でも」


「すごい嬉しい。ありがとう……っ」



俺だけのものになってもらいたい。


でも、彼女の中にある弘樹との思い出は消えない。



それは悔しいけど、受け入れなきゃいけないこと。



だけど、ごめん弘樹……。



目からしずくをこぼしながら、満面の笑顔を浮かべてくれた彼女が、

あまりにも、きれいだったから。



俺は指輪がついた方の手をつかみ、下へと引っ張った。



「ちょっ」



バランスをくずしそうになりながら、その場にしゃがむ愛美。



「いてっ」



俺も、体に響く右足の痛みにまけず、急いで姿勢をかがめた。


腰くらいの高さの墓石と、目線を同じにする。



これならまわりの人にも見えないだろう。