きたない心をキミにあげる。



その手を急いでつかんだ。


白い手首には、同じ色の線がうっすらと残っているだけ。



安心した。でも、傷跡、残っちゃったんだ。



「もうやってないよ。あんたをガツンってやってから切る気なくなった」


「そっか。なら良かった」


「腕……離してよ」



軽く頬を染めて、俺から視線を逃がそうとする彼女。


もう絶対に離れたくないと思い、胸がどくんと震えた。



「やだ」


「あ……」



俺は、そのまま華奢な左手を引き、彼女を思いっきり抱きしめた。



彼女もまた、俺の背中に手を回してくれた。



幸せな気持ちで満たされていく。


言葉が何も出てこない。



早まる鼓動が、触れ合う温もりが、痛む右足が、俺の生きている証だ。



「ちょっと」


「…………」


「そろそろ離して」


「無理」


「……もう! めっちゃ見られてるから!」



――え。



大声をあげられ、思わず左右を見回す。


喪服の人が、奥のお墓の前にぞろぞろと集まっていることに気がついた。



そのうち数人が、俺らの様子をいぶかしげに見つめている。


もしかしてお墓参りか納骨のために来た人たちだろうか。