線香に火をつけ、彼女はその場にぱっとしゃがむ。
俺は持ってきた菊の花を、カラフルな束の端に入れて、
ゆっくりと彼女の隣に膝をおろした。
つっ、と足の痛みに声がでそうになったが、こらえた。
彼女は前と一緒で、ぱんぱんと手を叩いている。
やっぱり作法違うよね? と思ったが、
前とは違い、目を閉じて何かを弘樹に伝えているようだ。
俺も静かに手を合わせ、彼に伝えた。
今からのこと、ちゃんと見ててくれよ、と。
目を開けると彼女はすでに立ち上がっていた。
俺も片目をつぶりながら、左足にはしっかりと、右足には軽く力をかけた。
愛美は不自然な俺の様子に気づいたらしい。
「あんた、足……」と心配そうに声をかけてきたが、
「もう治ってるよ」と返しておいた。
彼女は目を細め、俺を気まずそうに見つめていた。
「……あの時、本当にごめん」
「何が?」
「思いっきりあんたの右足、痛めつけちゃったよね。まだ治ってなかったし、悪化もさせてたのに」
「別にいいよ。あれで良かったんだよ」
そう伝えると、彼女は視線を落とし、右手で左手首をぎゅっと握った。
左手首――かつて赤い線が刻まれていた方だ。
嫌な予感がした。
え。まさか、また切ってる?

