きたない心をキミにあげる。








進路は、進学ではなく就職を選んだ。


ありがたいことに、割と良さげな企業から内定をもらうことができた。



「よし!」


「あれ? 何? あんたもオシャレなんかして」


「まあ、ちょっとはカッコつけようと思って」


「へぇ~。そうなんだー」



やたらオシャレなワンピースを着た母が、俺をニヤニヤと見つめていた。



「てか、母さんこそ気合い入れすぎ」



これ久々に着たんだけど似合ってる? 古臭くない? などとそわそわしている母を横目に俺は確認する。



髪型、ワックスでふわりと整えた。メガネ、ちゃんと磨いた。


服装、新しく買った春物で決めてみた。



あいつの形見である、金色の光、ちゃんと持ってる。


アルバイトをして買った、あれも、ちゃんと持ってる。



「それよりさーあんたが昨日作ったチャーハン、ニンニク入れすぎだったよねー。私、まだ臭くない? 大丈夫?」


「んー今日の母さん香水くさくて分かんない。気にしすぎじゃない? ただご飯行くだけでしょ?」



財布の中身を確認しながら、母にそう伝えると、


「だってデートとか久しぶりですからねー。そりゃあ良く見せたいでしょ」


と嬉しそうな声が聞こえてきた。



「じゃあ俺、先に行くから。母さんも頑張って」


「おうよ! あんたこそちゃんと決めてきなさいよ」



母には最近好きになった男性ができたらしい。


俺に構わず、もっと早くに彼氏とか作ればよかったのに。



だけど、ご飯誘われちゃったよ~とはしゃぐ母を見ると、俺まで嬉しくなった。