そろそろ、帰るか。
そう思い、お墓の前を離れようとした時。
「あれ。圭太くん?」
と、聞きおぼえのある声がして、俺は振り返った。
ゆっくりと背の高い影が近づいてくる。
緊張感が走り、心臓の音が早まっていく。
そこにいたのは愛美の義理の父、
そして弘樹と血のつながった父である、あの男だったから。
「え。あ。その……久しぶりです」
「やっぱりそうだよね。久しぶり」
彼はスーツ姿で、軽く微笑みを浮かべながらお墓に向かってきた。
俺が何もできずつっ立っている間に、そいつはしゃがんでお墓に手を合わせた。
「……花くらい持ってきてあげてくださいよ」
その目が開いた時、精一杯の嫌味をぶつけてやった。
「ん? 今日はたまたま仕事で近くに来ただけだからね」
俺のとげとげしい言葉を気にもしないような様子で、その男は立ち上がる。
唇をかみしめたままの俺とは対照的に、軽く口角を上げたまま。
「圭太くんはここまでどうやって来たの?」
「え。電車ですけど」
「僕、車だから送ってあげようか?」
「いえ……大丈夫です」
「いいから。同じ方向でしょ? 実は、弘樹だけじゃなく愛美ちゃんまでいなくなったから、今の家を売って引っ越そうと思っててね」
「…………」
「最後くらい、きみとゆっくり話したかったんだよ。行こう」
その男は、スタスタとお墓の間を進んでいく。
平日でほとんど人がいない霊園内。
空には雲がたちこめ、重々しい空気を放っている。
弘樹と愛美の話を出された手前、俺は断ることができなかった。
実の息子が死んで、義理の娘は家を出た。
その2つのことどちらにも、俺は大きく関わっている。
きっとこの男に相当恨まれているはず。
……も、もももしかして俺、
このままこいつに殺される!?

