静かに手を合わせ、弘樹に想いをはせる。
なぁ。弘樹。
どうして俺を助けたんだよ。
おかげで最後に見せてくれた悲しい笑顔の理由、分からないままだよ。
何も教えてくれないまま死にやがって。
お前のこと、もっと知りたかった。
でも、お前が死ななければ愛美と出会うことができなかった。
俺は愛美が好きだ。
お前が死んで良かった、って思ってしまったのは事実だ。
でもやっぱり死なないでほしかった。
って言ってることごちゃごちゃだな。ごめん。
事故にあわなければ、あの場所に行かなければ、横断歩道を早く渡っていたら、と何度後悔しただろう。
俺が死ねばよかったって何度思ったことだろう。
でも俺は現実の中で、今も、生きている。
助けてくれてありがとう、なんてことは言いたくない。
お前には俺を捨てて逃げる、って選択肢もあったから。
だから――
これからも、俺は、お前に助けてもらった命で精一杯生きていくだけだ。
自分自身と、汚い心と向き合いながら。
じゃ、また来るよ。
そう心の中で話しかけ、ゆっくり目を開けた。
膝に右手をそえて、いててっ、と口にしながら立ち上がる。
この痛みが、お前に生かされた証、
そして、俺の中でお前が生きている証になるのかな。
だったらずっと痛いままで、いい。

