「ただいま」
誰にも聞こえないような声でつぶやく。
お母さんだけがリビングにいた。
お父さんはお風呂らしい。
「おかえり。遅かったけど何してたの?」
「バイトまた復帰することにした」
「そう。バイトの日は連絡しなさいよ。お父さんがすごく心配してたから」
「…………」
私はお兄ちゃんの遺影をチラッと見てから、階段を駆け上がった。
数字ボタンをカチャカチャと押して鍵を開け、自分の部屋に入る。
部屋の中が朝と何も変わらないことを確認してから、玄関で脱いだローファーを新聞紙の上に置く。
制服をクローゼットにしまい込み、部屋着に着替えてから、
ぼふっとベッドに倒れ込んだ。
無くしてしまったブレスレット、どうしよう。
家や学校、駅からの道、病院のまわり。
全部くまなく探した。
あと探せていないのは、あの男の子が入院している病室だ。
もう一度、侵入するしかないのだろうか。
首を思いっきり絞めたこと、謝らなきゃいけないよな。
だけど、あいつの姿を見ると、また汚い感情がこみ上げてきそうで、怖い。

