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本当のお父さんのところに来てから、
一度だけ前の家――お母さんのところに行った。
仕事休みの平日、お父さんがいないだろう昼間をねらって。
おばあちゃんの具合はだいぶ良くなったらしいし、掃除も洗濯も終えたらしく、
久しぶりに会ったお母さんはヒマそうにしていた。
「愛美……ごめん。あの時はついカッとなって……」
「私こそひどいこと言ってごめん」
「お父さんも寂しがってるから。ねぇ、こっちに戻ってこない?」
「ううん。もう決めた。私は本当のお父さんの役に立ちたい」
ほこり1つなさそうな、綺麗なリビングで。
お母さんは花の模様がついた高そうなカップに紅茶をいれてくれた。
「だってお母さんはもう幸せを手に入れたんでしょ?」
「まあ、そうだけど……」
「だったらお父さんと2人で幸せに暮らしなよ。今まで、私を育ててくれて……本当にありがとう」
言葉がつまりそうになり、慌てて私は立ち上がった。
今まで頑張って私を育ててくれたことへの感謝。
そして目の前の幸せに飛びついて、真実を見ないようにすることに対する軽蔑。
「愛美、待って」
「ちゃんとお父さんに好かれるようなお母さんでいなよ。じゃあね」
何も知らないお母さんは、今は何も知らないままでいい。
きっと今は、お兄ちゃんとの恋に溺れていた私と同じ状態なんだ。
この先、もしお父さんが間違ったことをした場合、
ようやくお母さんは自分で物事を考えることを再開できるのだろう。
その時は私を頼ってくれればいい。

