「はぁ……」
酔っ払いや疲れたサラリーマンたちに囲まれた帰りの電車内にて。
私は吊り革を握りながら、空っぽになった右腕を眺めていた。
そこには、つい数日前までお兄ちゃんの形見があった。
どこで無くしてしまったのだろう。
心当たりはあるが、その場所にはもう二度と行けない。
行きたくない。
『あんたが死ねばよかったのに……』
感情に任せて、私は満身創痍の男の子を殺してしまうところだった。
本気で殺そうとは思っていなかった。
でも、そいつを見た瞬間、行き場のない悲しみ、怒り、悔しさが、一気に押し寄せた。
どうしてお兄ちゃんは死んだのに、一緒にいたあの男の子は生きているの?
本来ならば、殺した犯人を憎むべきだけど、そいつは死んでしまった。
犯人の身内が家で土下座していたが、お父さんもお母さんも責めることはしなかった。
故意ではなく不慮の事故であること、多額の保険金が家に入ること、犯人の身内に怒りをぶちまけても何もならないこと。
そして、お兄ちゃんが死んだ事実は変わらないこと。
生き残った少年を恨むことしか、私にできることはなかった。