「早くー。顔作るの疲れるからー」
「俺写真、苦手なんだよね。自分で撮った方がいいかもよ」
と伝え、笑顔を引きつらせつつある愛美にスマホを渡そうとした。
しかし、
「やだ。撮ってよ。自分でなんて嫌じゃん」と拒まれる。
「何で? どうせ自撮りとか得意なんでしょ?」
「遺影にしたいから」
「は?」
「だってお兄ちゃんの遺影見た? あんなの実物より全然カッコ悪いじゃん。圭太ならコスプレ美女の写真とか撮ってそうだし可愛く撮ってくれるかなぁって思って」
確かにコミケ会場でレイヤーさんの写真を撮ったことはある。
人多すぎてブレブレだったけど。
だけど、今彼女の写真を撮るのは、違うと思った。
遺影なんて、撮りたくなかった。
「前に、ある芸人さんが終活? を始めてるっていうのテレビで見て、面白くて。遺影は若くてきれいなうちに撮っておく、とか、好きなものと一緒に写るのが流行ってる、とか。だから、こういう景色を背景に撮るのってよさげじゃん?」
「やだ」
「お願い」
「絶対撮らない」
「圭太の前での私が、たぶん一番可愛いはずだから」
「…………」
スマホを落としそうになり、はっと彼女を見た。
白くてやわらかそうな頬をふくらまし、つややかな赤い唇はきゅっと閉じられている。
大きな目でじっと見つめられ、体が熱くなっていく。
風でふわりと揺れるポニーテール。
右腕につけたままのブレスレット。
どうして俺の前でいる時が一番可愛いって言うんだ?
弘樹のことを話すときの方がきれいなくせに。

