それまで住んでいた街から引っ越しをしたのは、

高校1年生の5月だった。



新しいお父さんもお兄ちゃんも、優しく私たちを迎え入れてくれた。


お母さんも仕事を辞め、専業主婦に戻った。


私は高校に入学したばかりだったし、友達と離れるのが寂しかったため、

電車で往復2時間以上かけて同じ高校に通い続けることにした。


家に帰るのは午後8時くらい。


友達と遊んで帰れば、私の帰宅が一番遅くなる日もあった。



『ただいま』



そうつぶやき、リビングに向かう。



ビールを片手に微笑むお父さん。


台所で料理をしているお母さん。


テーブルにお皿を並べるお兄ちゃん。



3人の家族が私に『おかえり』と言ってくれた。



――あの時の幸せは、全部、幻だった。