きたない心をキミにあげる。



息が上手くできなくなる。


手の甲で目を覆い、涙をふきとっていると、

右手首のブレスレットが蛍光灯に反射した。



あおむけのまま何かをつかむように、右手を伸ばす。



ゆっくり足を引きずる音が近づいてきた。


その不規則なリズムが、私の鼓動を早める。



「でも、お兄ちゃんのことは忘れたくないんだよ。お兄ちゃんがどう思ってたとしても、私が幸せだったのは確かなことだったから……」



そう口にすると、私のすぐ近くにきた足音が止まる。



その上で私は前に進みたい、と続けたかったけど、やめた。



圭太の影が私を包んでいたから。


このまま私のことを抱きしめてほしかった。



だけど、その姿は横にそれ、隣の布団がぼすっと鳴った。



恐る恐る、その方向に顔を向けたが。



「ちょっと……今、寝るとこ?」


「…………」



すぐ隣で、圭太はあおむけで布団に横になっていた。


メガネを枕元に置き、顔は両腕で隠している。



本当に寝るつもりだろうか。……ありえない。



「まじ? 本当に寝ちゃうの? 人が真面目に話してるのにひどくない?」



つんと浴衣の袖のあたりを引っ張る。


それにしても、腕ほっそいなぁこいつ、運動とか全然できないんだろうな。



「うん。寝る」


「ねー起きてよ。こんなこと言ったの初めてだよ」