部屋の中は静まり返り、ドアの奥から楽しそうな声がうっすらと聞こえてきた。
「ねーねー」
「ん?」
「私って結構モテるんだよ。中学の頃から彼氏何人かいたし」
「へぇー」
面白くなさそうな返事が部屋に響く。
それが嬉しかった。
「でもお兄ちゃんを好きになったら他の人が一切見えなくなった。それまでの恋って一体何だったんだろうって思うくらい、本気で好きだったんだぁ」
ころんと転がり、あおむけの姿勢になる。
天井の蛍光灯をぼんやり眺め、光で瞳がくらんだ時、目を閉じた。
円状の残像がちかちかとまぶたの裏で点滅している。
「好きな人と毎日いれるっていいことだよね。私の寂しい心、全部埋めてくれるから」
「…………」
「この前、圭太に言われたこと本当だったかもしんない。孤独とか不安とか抱えている中で、ずっと一緒にいて優しくしてくれたから、お兄ちゃんになついちゃったんだろうね」
「や、あれは……!」
「だってお兄ちゃんは私に心なんて開いてなかったんだよ。きっとお父さんが逮捕されて苦しんでたんだよね。だからネットで情報集めたり、壁殴ってたのかもしれないじゃん。
言ってくれればよかったのに。でも、もう本当のことは分かんないんだよ。お兄ちゃんは死んじゃったんだから」
目を開け、圭太の姿を確認する。
彼は体育座りをしたまま、膝に乗せた腕に顔をうずめていた。

