その先は、ピンク色を基調にした女の子っぽい部屋だった。
ほんのりとお菓子の甘い香りが漂っている。
「ごめん、すぐ行くから!」
愛美は髪の毛を上に結わえた姿で、服や通帳を手にしていた。
ベッドの上には下着が、床にはたくさんの靴が散乱している。
「えっと?」
「散らかってるから入っちゃダメ! お兄ちゃんの部屋で待ってて」
愛美は、必死になってリュックとトランクに物を詰め込んでいた。
部屋に入ろうとしたら止められてしまったため、隣にある弘樹の部屋のドアを開けた。
「何だよ、これ……」
久しぶりに入った弘樹の部屋は、以前と全く変わっていた。
ベッドと机以外の家具はなく、フローリングには段ボールがいくつか積まれている。
片付けられている途中らしいが、俺が驚いたのはそこではない。
見つけてしまったのだ。
壁にある不自然な傷、そして大きな穴を。
左足だけで床を蹴り、そこへと近づく。
掻きむしったような何重にも重ねられた壁の傷。
壁紙の亀裂に囲まれた、円状の壁の凹み。
こんなのあったっけ?
家具が置かれていたから分からなかったのか?
温厚な弘樹の部屋にそぐわない景色に、体に緊張感が走った。
その時――
「圭太、行くよ! お父さんに止められたら何とかしてくれる?」
リュックを背負い、トランクを引いた愛美が、部屋から飛び出してきた。
厚手のパーカーを羽織り、スニーカーも履いた状態で。
ここから脱出するつもりらしい。
「え? あ、頑張ります!」
やばいな、足また悪くなっちゃったのに。大丈夫だろうか。
そう思いながら、彼女の後ろに続き階段を下った。

