きたない心をキミにあげる。



しかし、不規則なリズムの足音に、一定のリズムの音が混ざる。


階段の踊り場で、愛美の父親に追いつかれてしまった。



「人の家の中を勝手に動くんじゃない!」



怒鳴り声と腕に捕らわれてしまったが。



「愛美!」



俺は必死に叫んだ。


階段の先にある、閉じられたドアに向かって。



そこには、一般的な家の中にあるのが不自然な、番号式の鍵が取り付けられていた。


以前、弘樹の部屋に遊びに行った時、隣の部屋にその鍵がついていたのを不思議に思っていた。


彼は『ここは父親の書斎。前に甥っ子が来た時に入られて荒らされたから鍵つけたみたい』と答えた。


あまりこれ以上聞くなよ、という雰囲気を出しながら。



ここが、愛美の部屋だったんだ。



「こら! 早く戻りなさい!」


「愛美!」


「だから愛美ちゃんは出かけてるんだよ!」


「離してください!」



つかまれた腕を振り払い、右足の激痛に耐えながら残りの階段をのぼりきる。



「……圭太ぁ。助けて」


という弱々しい声が、ドアの奥から聞こえたから。