「あの、もしよかったら弘樹の部屋、見せてもらってもいいですか?」
「どうして? もう片付け始めてるよ」
「実は、大切な本を弘樹に貸したままでして……。もしあればと」
「何の本? 探してきてあげるよ」
セリフを口にするような、なめらかな言い方ながらも、
早くここから出て行けオーラがむんむんと放出されている。
くそ。こいつちょっとだけ、どっかいってくれないかな。
俺もあの名探偵みたいに腕時計型の麻酔銃を持っていれば……とオタク的妄想さえしてしまう。
「う、どんな本かは言えないんです! その、男同士の秘密っていうか」
察してくれ~! と願いながら、そう大声を出す。
すると再び頭上から音が聞こえた。
間違いない、足音だ。
すみません! と勢いよく謝り、全力で松葉杖を前方につける。
急いで廊下に戻り、階段へと向かった。
「こら、待ちなさい」
後ろから愛美の父親に追いかけられたが、構わず松葉杖を手離し、階段を駆け上がった。
左足で段を踏み蹴り、右足をつけ、再び左足で踏ん張る。
「つっ!」
右足に激痛が走る。息が苦しくなる。
だけど、愛美がきっと、いる。
この家に、父親と2人きりの状態で。

