何かがおかしい。
愛美が俺に会いたくない理由、それは違うはずだ。
『お兄ちゃんのいない家に帰るのがつらくて』
『お兄ちゃんね、生きてるとき、家でお父さんからずっと私を守ってくれたんだ』
『何だか分かんなくて。お兄ちゃんのこと。あんなに近くにいたのに。ぎゅっとしてくれたのに』
愛美は弘樹のことを俺に話してくれた。
俺もまた、愛美を助けることで、弘樹が死んでしまった罪悪感を埋めようとしていた。
気がつくと、愛美に恋をしていた。
愛美もまた、俺を受け入れようとしてくれた。
会いたくない理由があるとすれば、
それは、俺がひどいことを言って愛美を傷つけたからだ。
家の中は静まり返っている。母親の気配はなさそうだ。
嫌な予感がした。
――この父親、嘘、ついてる?
「あの、じゃあ俺、すぐ帰りますんで、弘樹の遺影だけでも拝ませてもらっていいですか?」
「だめだ」
「お願いします! 足こんなんだからお墓行けなくて。どうしてもここでしか弘樹を弔えないんです!」
俺はわざと大声を出し、頭を下げた。
家が密集している、休日の住宅街。
すぐ後ろの道路には親子やお年寄りなど、人が時々通っている。
愛美の父は気まずそうな顔をした後、無言で家の中へ入っていった。
これは俺も入っていいというサインだろうか。

