きたない心をキミにあげる。




小さな街灯の光を何度もくぐり、俺を乗せた車は病院へと向かう。



運転中の母は無言のまま。


何かに緊張しているのか、こわばった表情で車を走らせている。



その様子を眺めていると、ある記憶が鮮明によみがえった。



『何で、死んだのよぉ……ううぅ……う』



13年前、父が死んだ時のこと。そして――



『母さん、あんたがいなくなったらどう生きていけばいいか……あんたが意識ない時、どんな気持ちだったか分かんないの!?』



俺の意識が戻った時のこと。



「……母さん」


「何? 痛いの? もうすぐ着くから我慢しなさい」


「そうじゃなくて。ごめん、俺……」



正面に赤い光が灯り、エンジン音がふっと途切れた。


目の前の交差点を行き交う車のライトが、俺と母を同時に照らす。



「俺、父さん死んだ時、すごい悲しかったけど」


「…………」


「これで母さんは俺だけを見てくれるって思った」



信号が青に変わる。母はアクセルを踏み込んだ。


全身が軽く揺れ、右足に痛みがつんと走った。



「母さん。俺、こんなんで……」



病院の門が見えてくる。


ウインカーを鳴らし、日中より空いた駐車場へと車は進んでいく。