その時――
「圭太! 何してるの!?」
後ろから、母の声が響いた。
アスファルトに倒れ、立ち上がることができない俺。
慌ただしいヒール音がまわりの家に響き、近づいてきた。
「大丈夫? 足、何かあったの?」
「母さん、どうして……?」
「だって鍵開いたままだったし、近くにいると思って」
母は俺の腕をつかみ、重そうに上へ持ち上げた。
その力を借り、左足をふんばって立ち上がる。
右足は痛みのせいで、地面につけることができなかった。
そのまま母は、かつぐように俺の片腕を首に回した。
体が一瞬だけ沈んだが、息を止める音とともに再び元に戻された。
「進むよ。もっと寄りかかって」
「や、行かなきゃ。俺」
「何言ってるの!? 足痛いんでしょ? 病院行くよ!」
「でも」
「うるさい! 痛いだろうけど、駐車場まで頑張って」
「愛美が……」
「愛美ちゃんがどうしたの?」
「俺……愛美を……傷つけた。だから行かなきゃ」
「……足そんなんじゃ行けないでしょ? まずは病院!」
「うぅ……ごめん……っ。愛美……」
母の背中に腕を回し、一歩、一歩、左足だけで進む。
ぜぇ、ぜぇ、と俺の息切れの中に、母の疲れた息が混ざった。
「あんた泣きすぎ。愛美ちゃんにはお母さんがメールしとくから」
「でも……」
「母さんは圭太の母親なの。申し訳ないけど今は自分の息子を助けるのが先!」
そう言って、母は俺をマンションの駐車場まで運び、急いで車のエンジンをかけた。

