「にゃーん」
「…………」
「愛美ちゃんはお母さんからお父さんを奪おうとしている泥棒猫ですか」
「何それ。全然違うでしょ」
「そうなんだけど、お母さんヒステリー起こしたら何も聞いてくれないから。泥棒か……お兄ちゃんと圭太が事故にあったのも、私のせいなんだよね……」
「それも違う! あの時は俺が……」
足元に視線を落とし、圭太は「この話、今はやめよっか」と続けた。
左足には靴下、右足にはサポーター。
松葉杖は必要みたいだけど、両足で立つことができるようになった。
着実に彼の足は治ってきている。
そろそろお兄ちゃんのお墓参りに連れてってあげていいかもしれない。
でも、その前に――
『お母さんから幸せを奪わないで! この泥棒猫!』
私はお母さんにも見捨てられてしまった。
お父さんはキモいし、お兄ちゃんはいなくなっちゃったし、私はどうしたらいいのだろう。
「圭太」
「ん?」
「私、どうしたらいいのかな。あの家もう帰れなくなっちゃった」
膝の上で手のひらを握ると、涙が出そうになった。
左手首の傷跡がうずく。
「もし色々大丈夫なら、ここにいていいよ」
「え……迷惑でしょ」
「今さら何言ってるの。ただ、俺の母さんには事情説明した方がいいかもしれないよ。いい?」
圭太はメガネ越しに私を横目で見た。
うんと頷く。
これ以上、優しくしてもらったら本気で圭太が欲しくなっちゃう。
もっと彼をいじめてあげたくなる。

