「ただい、ま……?」


「そっちは最近どう? えーうっそーあの人が部長に? 信じられない」



家のドアを開けると、かすかにお母さんの話し声がした。



お父さんはもちろん帰ってきていない。


誰かと電話しているようだ。前の職場の人かな。



構わず私はリビングに入ろうとした、けど。



「そうなのよー。今私のお母さんが危なくて、もう大変。葬式ってすっごい疲れるのよ。特に弘樹くんの時は再婚したばかりだったし、親戚の人と気まずい雰囲気で全然話できなかったし」



ドアを開ける前に私は足を止めた。



入っちゃいけない空気を感じたから。


そして、お母さんの本音を聞ける気がしたから。



「うん。でもね、弘樹くんのことはもちろん悲しかったけど。私、あの子のことがよく分からなかったのよ。大人すぎて高校生っぽさが全然感じられないっていうか、人間味がないっていうかー」



お母さんにバレないよう、私は息をひそめて廊下に立っていた。


一言も聞き逃すまいと、ドア越しに耳をすませる。



「いまどきの子は逆にそうなのかなー。家事手伝ってくれたり、愛美の面倒見てくれたり、本当にいい子だったんだけど。そう、仕事してる、みたいな? 薄っぺらい営業マンみたいな? とにかくちょっと気味が悪かったの」