「ごめん。弘樹のこと、色々思い出させちゃったよね」
「違う。何だか分かんなくて。お兄ちゃんのこと。あんなに近くにいたのに。ぎゅっとしてくれたのに」
「…………」
口にしたハンバーグが、苦みを帯びていく。
『ぎゅっとしてくれたのに』という言葉が引っかかった。
愛美が今言おうとしていることは違うはずだ。
しかし、部屋の中で両想いの男女がすることって……そういうことだよね、と別のことを考えてしまう。
弘樹はきっと愛美のことを抱いていて、それを彼女も受け入れていて。
目の前にいる彼女が、別の人の所有物であることを実感させられた。
こんなこと考える自分は、汚い。
ただ、弘樹のことがよく分からないというのは、共感できた。
それを伝えると、愛美は不思議そうな顔をして、「友達同士なのに?」と聞いてきた。
「まあ男同士ってそんなもんじゃない? 女子の方が恋バナ? とかしょっちゅうしてるでしょ」
「まあ、そうかも。でも、お兄ちゃんとのことは誰にも言ってない。言えるわけないよ」
「あー、そうだよね……」
血のつながっていない兄妹による、2人だけの秘密の恋、か。
それ以上のことを考えたくなかったから、
話題を無難なものに変えて空腹を満たすことだけに集中した。

