きたない心をキミにあげる。








「じゃあ、少しずつ体重かけてみましょう」


「はい」



曲げて伸ばしてを繰り返した後、手すりにつかまり両足で立つ。


手を離した瞬間、不思議な感覚がした。



普通に二本足で立っている。


あの日、無くなったはずの命が、削り取られた命が、元に戻っている。



スタッフさんに手伝われながらも、ゆっくりと歩行を始めた。



今日はリハビリ通院の日。


医師の許可が出て、俺は右足にほぼ体重をかけて良いことになった。



「どうですか? 痛みとかは?」


「ちょっとありますが、大丈夫です。まだ慣れないですけど」



平行棒につかまり一歩、一歩、足を進めていく。


久しぶりの2足歩行に慣れず、すぐに疲れが押し寄せる。



ぜーぜーと息切れをしながら休憩していると、


「焦らなくても、若いんだからすぐもとに戻れますよ~」と声をかけられた。



「はい。ありがとうございます」



そう答えつつも、

本当にこのまま普通の生活に戻っていいのかが、分からない。



弘樹は死んでしまったのに。俺は、元に戻ろうとしている。