現場系男子にご用心!?【長編改訂版】

「……ごめん」

そう、ぼそりと岡田さんは漏らす。
そして、身体がふわりと包まれた。

工場独特の匂いの中に、岡田さんの香りが仄かにする。
その匂いに安心したのか、堰を切ったように、声を上げて泣いてしまった。

「ど、うして?どうして、岡田さんが謝るの?わるっ、悪いのは、私、なのにっ……!」

「俺がいきなり里緒奈を困らすようなことを言ったからだよな。それで悩んで、仕事に影響が出たんじゃないか?」

「……違うよ……ちがう、けどっ……」

隠さないで、はぐらかさないでタイに行くって言って欲しかった。

そうすれば、こんなに悩まなかったのかもしれない、こんなに苦しまなかったもしれない、ただそれだけだった。

でも、岡田さんも苦しかったんだよね?
タイに行くって言ったあとの私の反応が怖くて、言えなかったんだよね。


「少し落ち着こうか。その右手じゃなにも出来ないだろうから、嫌かもしれないけど俺の家に行こう」

そんな私を岡田さんは背中をさすりながら宥めてくれた。
そして抱えられるようにして私を立ち上がらせると、ゆっくりと外へ向かった。


車の中は、タイヤが道路を走る音しか聞こえない。
いつもかかっているはずのジャズも、このときばかりは無音だった。


岡田さんは信号で止まっているときもただ前を見て、私を見ることは一度もない。
なにか思い詰めているような顔をして、前を見ているいるだけだった。

私は泣きはらした顔を下に向けて、時たま岡田さんを横目で見ながらその時間を耐える。


その時間がとても長かった。

早く着けばいいのに、そう思った。